93条と94条の条文を読み比べてみて,何か気づかれたことはありませんか? 注意深い方ならお気づきの方もいらっしゃるかと思います.それは,今お話した94条第2項「善意の第三者には対抗できない」という規定が,93条にはないということです. 「それは,93条の心裡留保の場合は,善意の第三者にも対抗できるからじゃない?」と思われるでしょう.論理的に考えるとそうなのですが,実は困ったことに,民法の解説書を見ると,「心裡留保の場合,当事者間では,原則,相手方が善意無過失であれば有効,例外として,相手方が悪意又は善意有過失であれば無効,しかし,善意の第三者には対抗できない」と書いてあるのです. すると,次の問題は,「善意の第三者には対抗できない」というのは,どこから出てきたのか,ということですよね.実はこれは,94条第2項で善意の第三者保護を図る理屈と,93条で善意の第三者保護を図らねばならない理屈が似ているため,93条においても94条第2項を類推適用することが可能です.ゆえに取引の安全保護の観点からも93条においても「善意の第三者には対抗できない」とすべきであるという学説を根拠としているのです. 学説は通常,通説(大多数の人がそうだと思っている説)・有力説(大多数の人がそうだと思っているが,今ひとつ通説になりきれていない説)・多数説(複数の説がある場合,多くの人がそうだと思っている説)・少数説(そうだと思っている人こそ少ないが,説として見逃せない考え方を含んでる説)といった分類がなされますが,この93条における94条第2項の類推は通説とされています. 皆さんは,こういった各学説の内容や学説上の争いまで覚える必要はまったくないのですが,民法解説書に書かれている93条にいう「善意の第三者に対抗できない」と,94条第2項の「善意の第三者に対抗できない」では,まったく性質が異なるということです.94条第2項の方は「民法の規定によれば」という問題でも出題可能ですが,細かいことを言えば,93条の方は出題できない,ということになるのです.事実,本問の選択肢1でも,「善意の第三者に対抗できるか否か」という点は触れられていませんね. 何が申し上げたいかというと,こうです.皆さんの多くは民法の学習を入門書・解説書・基本書などを使用されているかと思います.確かに,私は,条文の重要性を説きましたが,このやり方自体に問題があるというつもりは,まったくありません.ただ,そこに書かれている内容は,条文の内容だけではなく,このように通説の見解や判例の見解などもまとめて混在して書かれている,ということを知っておいてほしい,ということなのです.その上で,どこまでが条文に明記されているかをチェックしていく(覚える必要はありませんよ)とよい,ということなのです.
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